ズマ大統領の早期退任はあるか?その2(終)

(「ジェイコブ・ズマ大統領」出典:WorldEcnomicForum)

 

こんにちは、品川です。前回、2017年12月29日の南アフリカの憲法裁判所(Constitutional Court=ConCourt)によるズマ大統領弾劾勧告判決をご説明しました。

 

ランド/円にとっては、ズマ大統領の弾劾(要するにクビ)はプラスに働くはずなのに、実際には12月29日以降の相場で、値下がりしてしまいました。なぜでしょうか。いくつか理由を探ってみたいと思います。

 

連載第2回目です。

 

(ちなみに「ランド/ドル」で同じ話題を扱う手もありますが、本サイトでは「ランド/円」で進めて行きたいとも居ます。クロスレートについては、この記事をご参照ください。)

 

 


理由1.利食い売りが優勢になっていた。


なぜ、憲法裁判所の弾劾勧告判決は、相場に影響を与えなかったのでしょうか。その理由のひとつとして考えられるのは、売り相場に飲み込まれてしまった、ということがあります。

 

ラマポーザ氏が勝利したのが2017年12月18日で(この記事参照)、それから2週間もない内に1円近く、ランド/円は、近年にない上昇を見せました。

 

ランド/円を8円台で買っていたひとは、これで10万円は得した(※)でしょうから、「ちょっとここで手じまいかな」と考えるのは当然です。

 

(※ランドを1回の取引で何ロット買うかについては、この記事をご参照ください。私は7ロットが妥当と思いますが、ほとんどのひとは1度の取引で10ロット買います。)

 

この「手じまい相場」、つまりランド/円売りのムードに、憲法裁判所の弾劾勧告判決は掻き消されてしまった・・・と考えることは、それなりに理に適っているでしょう。

 

以下は、ザイFXの、2017年12月29日(金)01時21分の記事です。

 

LDNFIX=ドル円 112円後半で方向感ない、ZARは利食い売り優勢

南ア・ランド(ZAR)は利食いの売りが優勢になった。本日発表された11月の貿易収支は130億ドルとなり、前回の46億ドルの黒字、予想の13億ドルの黒字よりも大幅に黒字額が増え、一時ZARが買い戻される場面もあった。しかし、ここ最近のZARの上昇が1カ月で10%以上と急激で、年末を前にZARロングの手仕舞いの売りが出て、ドルZARは12.36ZAR近辺、ZAR円は9.12円までZARが下落した。

 

この流れに憲法裁判所の弾劾勧告判決は、飲み込まれてしまったのです。

 

 


理由2.憲法裁判所の判決で全て決定というワケではない。


なぜ、憲法裁判所の弾劾勧告判決は、相場に影響を与えなかったのでしょうか。その理由の2つ目として考えられるのは「これでズマ大統領弾劾に議会が動き始めると考えるのは尚早」という政局分析があります。

 

まず、単純に言って、南アフリカの議会(※)は、いまだズマ大統領の派閥が多数派で、弾劾勧告判決を受けたとしても、ちょっとやそっとじゃ動かないだろう、と考えられます。

 

(※南アフリカは二院制。上院は「全国州議会National Council of Provinces」通称「NCOP」。下院は「国民議会National Assembly」通称「the assembly」。今回の憲法裁判所は下院に向けてのものでした。前回のChris Jafta裁判官の判決文をご覧になってください。)

 

ちなみに、今回の弾劾を憲法裁判所に持ち込んだのは、EFF(経済的解放の闘士:Economic Freedom Fighter)を代表とする南アフリカ議会の野党勢力で、マンデラ氏の強力な遺伝子を引き継ぐ与党のANC(アフリカ民族会議:African National Congress)は、こんなチンケな出来事で崩れるはずがない、という見方もできます。

 

さらに言ってしまえば、EFFは反資本主義反白人勢力(※)なので、投資家サイドから見れば「はっきり言って、お呼びでない」とばっさり切り捨てることもできます。

 

(※2018年1月6日訂正:共産主義に関して言えば、ANCが中道左派で、南アフリカ共産党をも取り込んでいることを見逃してはなりません。)

 

また、憲法裁判所による弾劾勧告判決は、南アフリカの民主主義、要は(行政・立法・司法の)三権分立の侵害ではないのか、という見方もできるのです。

 

 


理由3.要はANC内部で権力の交代が無ければ無意味。


だから、EFF主導で議会においてズマ大統領弾劾とかのストーリーが生じても、投資家たちは無関心なのです。要は、ANC内部でズマ氏の追い出しが無ければ意味が無いのです

 

このズマ追い出しを誰がやるのか?-ラマポーザ氏しかいません。

 

なので、今回の弾劾勧告判決があったとしても、ラマポーザ氏が動かなければ何の意味もありません。

 

この点について、ヘラルド新聞(The Herld)は興味深い分析をしています。

 

以下は、前回と同じく、ヘラルド新聞の「本当にこれでズマは退任するの?(Dignified exit for Zuma?)」という記事からの引用と、その意訳+補足です。

 

12月29日の憲法裁判所の判決は、ラマポーザを身動き取れないところに置いてしまった。

(東ケープ州南部)ポートエリザベスを拠点とする政治アナリストJoleen Steyn-Kotze博士は、今回の憲法裁判所のズマ大統領弾劾勧告判決は、渦中のラマポーザ氏を、身動きできない状況に陥れたと分析する。

Steyn-Kotze博士は言う。「ラマポーザ氏が、もしズマ大統領弾劾に動かなければ、彼は政治家としてのモラル、特に党首選中に宣言したモラルに反することになるだろう(選挙期間中、ラマポーザ氏は与党内の腐敗を一掃すると約束していた:ロイター報道)。」

加えて、Steyn-Kotze博士は言う。「その一方で、ラマポーザ氏が、もしズマ大統領弾劾に動いたとすれば、ANC党の最高意思決定機関であるENC(全国執行委員会:the national executive committee)内で分裂が起こる。それは他ならない、南アフリカの政治運営がマヒしてしまうということを意味する。」

[Y]esterday’s Constitutional Court ruling may leave new ANC president Cyril Ramaphosa between a rock and a hard place.

Port Elizabeth-based political analyst Dr Joleen Steyn-Kotze said the court decision left Ramaphosa between a rock and a hard place, as either inaction or a decision to remove Zuma as president could cost Ramaphosa support.

“Ramaphosa is left in a very difficult position,” she said.

“If he doesn’t [act against Zuma], it weakens his hand significantly based on his campaign of morality.

“At the same time, if he does act, the composition of the national executive committee [NEC] might [bring about] a political paralysis, which means the process could drag on.”

 

つまり、ラマポーザ氏にとっては、こういう言い方が適切かどうか分かりませんが、「進むも地獄、退くも地獄」の局面に入ったということです。

 

そして投資家たちは、ラマポーザ氏の動きを見ないまでは何も判断できないのです。

 

だから今回の憲法裁判所の弾劾勧告判決に投資家たちは即座に反応しなかった、ということに成ります。これが、少なくとも、上昇相場の起こらなかったことの説明には成るでしょう。

 

 


・ANC内部の動き。


最後に、当のANC内部の動きについて、南アフリカの新聞サンデータイムズ(The Sunday Times)が「すでに内密にズマ退陣の動きがANC内部で始まっている」と報じたので、これに触れたいと思います。

 

ただ、引用はブルームバーグ誌によるまとめからで、すこしサボっています。ブルームバーグ誌でのタイトルは「南ア与党ANC、ズマ大統領の早期退陣協議-サンデー・タイムズ紙」というものです。

 

南アフリカ共和国の与党、アフリカ民族会議(ANC)は、ズマ大統領の早期退陣に向けた協議をクリスマス後に開始すると、同国紙サンデー・タイムズが匿名の関係者を引用して伝えた。早ければ来月(2018年1月)の退陣を目指すという。

ズマ大統領の任期は2019年まで。ANCの議長(党首)選では、ラマポーザ副大統領が新議長に選ばれた。同紙によると、ラマポーザ氏と新たに選出された全国執行委員会(NEC)が執行部の初会合でズマ大統領の来年1月の退陣問題を協議する可能性がある。NECは5年ごとに開催の全国大会の間のANCの最高の意思決定機関。

 

ちなみに、サンデータイムズの元記事も探しましたが「ANC in secret talks on early Jacob Zuma exit」というのがあっただけで、しかもずいぶん長かったので、まだ精読していません。こちらの記事では、まだズマサポーターに反対者も居る、ということも述べられていました。

 

 


・いずれにせよ、南アフリカのファンダメンタルズから目が離せない。


私自身は、今し方触れた「ズマ大統領早期退陣」を、来年初頭から投資家が織り込んでゆくのではないか、という希望的観測をしています。

 

実は、ランド投資家なら分かるとおり、ランドは非常に長い間、起爆力を溜めていて、ずっとズマ悪政に上値を押さえられて来ました。

 

テクニカルしか見ていない軽薄な人たちは「上値は9円か?」なんて浅い洞察をしていましたが、ズマ退陣により、ここからランドは大きな地殻変動が予想されます。

 

それは黒田バズーカやトランプ相場の比ではないでしょう。

 

この期待が2018年中に爆発することを願います。

 

私は、ランド/円の定位置は12円台だと考えています。

 

それでは。

 

本記事が何かしらのお役に立つことを願っています。

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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