ドル/円が75円台だった頃を覚えていますか? その1

(画像出典:山川出版社)

こんばんは。品川です。2017年9月の時点で為替は110円で108円台に入ったら円安のように言われていますが、それは違います。安倍政権の黒田バズーカが放たれる前、2012年ごろはドル/円は75円だったのであり、その頃に比べたら100円台は天国です。

 

現在のアナリストとの、こういった感覚のズレ(108円で円安?)は、ひとえにアナリスト達が中期的な視野でしか物事を語らないからでしょう。本記事は、それに対するアンチテーゼを意図して書かれるものです。

 


・2010年から2012年までドル/円は最悪だった。


(画像出典:外為オンライン)

 

外為オンラインさんの月足チャートのフルチャートです。少し見にくくてすみませんが、左端が1995年ごろ、右端が2018年ごろに成っています。黒枠の所を拡大してみましょう。

 

 

2010年から2012年の間は、ドル/円において最悪だったのが一目で分かります。底を打っているところは75.50円あたりです。

 

実際、自動車の様な輸出機械産業に頼った日本の経済は、当時大変低迷していたのです。何回も日銀による為替介入が行われていたのもこの時代です。

 


・為替介入を伝える当時の記事から。


2010年当時から2017年を見ればバラ色でしょう。当時は悲観一色で、ドル/円が100円台に戻るなんて誰も予想していなかった時代です。むしろ反対に、ドル/円はもうフリーフォール、底なし沼の様に落ちて行くと考えられていました。

 

黒田バズーカが炸裂するのは2013年です。アベノミクスもその時代です。それ以前は、白川総裁の実を結ばない舵取りにデフレ一色、円高一色の経済でした。

 

為替介入に踏み切ったのは、そんな時代に業を煮やした白川前日銀総裁の英断でした。当時の息遣いを伝える記事を読んでみましょう。

 

まずは、日経新聞さんの記事からです。

 


「政府・日銀、日欧で単独介入 円売り1兆円規模に」
政府・日銀は(2010年9月)15日午前、2004年3月以来、6年半ぶりとなる円売り・ドル買いの単独介入に踏み切った。欧米景気の先行き不透明感などから、円相場が約15年ぶりの高値となる1ドル=82円台を付けるなど、急激な円高・ドル安が進んでいるためだ。15日夕には東京市場に続いて、ロンドン市場でも介入を継続。介入額は1兆円規模になったもようだ。円高とデフレの阻止に向けた明確な姿勢を示すことで相場の安定を目指す。
円相場は15日午後も、政府・日銀の断続的な円売り介入を受けて下落を続けた。同日夕には一時85円54銭に下落し、8月30日以来の円安・ドル高水準を付けた。円売りを急ぐ欧州のファンドなどでは、日銀が介入資金を金融市場に放置する姿勢を示したことで「日銀の金融緩和が強まる」との思惑も広がっているという。
関係筋によると、介入の効果を高めるため、政府・日銀はニューヨーク市場でも単独介入を継続する見通し。基本的に海外の中央銀行に実務を委ねる委託介入は使わず、日銀が邦銀などを通じて介入する方式を活用。事実上、24時間体制で介入を行う。海外も含めると、15日の介入規模は1兆円超に膨らむ可能性がある。
野田佳彦財務相は15日午前、財務省内で記者団に対して「日本経済はデフレが進行し、依然厳しい状況にある。足元の(急激な円高の)動きは経済・金融の安定に悪影響を与え、看過できない」と為替介入に踏み切った理由を説明した。
日本企業の間では急速な円高への警戒感が一段と強まっている。経済産業省の緊急調査では、製造業の約4割が、85円程度の円高が続いた場合には生産工場や開発拠点を海外に移転すると答えた。想定を上回る円高に、業績悪化や産業の空洞化に対する懸念が高まっており、政府内でも「介入はやむを得ない」との声が高まっていた。
ただ、日本政府による円売り介入は、輸出主導の景気回復を目指し、自国通貨安を容認しているとされる米欧などから積極的な支持を受けているわけではない。実際、今回は米欧などと協力して実施する「協調介入」はできなかった。円高阻止のための単独介入を繰り返せば、海外から批判が出る可能性もある。
一方、日銀は単独介入を受けて、円売り・ドル買い介入で市場に供給される資金を吸収せずに放置することで、事実上の金融緩和につなげる方針だ。円高阻止に政府と一体となって取り組むことで、デフレ圧力を和らげる狙い。日銀の白川方明総裁は談話で、「強力な金融緩和を推進するなかで、今後とも金融市場に潤沢な資金供給を行っていく方針」と強調した。(日経新聞2010/9/15 19:51 :一部文章改変済)

 

次は、FXをやっているひとなら誰でもお世話に成っているFX WAVEさんの記事です。

 


約6年半ぶりの円売り・ドル買い介入が本日実施されたが、東京都民銀行の角田秀三シニア為替アドバイザーがまとめたところによると、過去の円売り介入では短期的にこそ円高抑制効果はあったものの、長期的に円安変更できたのはドルが全般的に上昇した時だけだったという。こうしたことを考慮すると、ドルインデックスの戻りが鈍い現状で、中・長期的に円安方向へ転換できるかに関しては不透明感も残る。
なお、2003年から2004年にかけて行われた大規模為替介入の詳細を、以下2期(1)と(2)にまとめる。
(1)2003/1−3月期 介入額 2兆3867億円
1月15日−29日(8日間) 介入額 6781億円 117.40−119.30円
2月24日−3月10日(9日間) 介入額 1兆7086億円 116.78−118.30円
※1件当たり小額で長期間が特徴 (1日の最高金額 3740億円)
(2)2003年5月以降→大規模介入へ
2003/5月 介入額 3兆9826億円 115.10−119.64円
※5月19日は1兆401億円
2003/6月 介入額 6289億円
2003/7月 介入額 2兆272億円
2003/8月 介入額 0円
2003/9月 介入額  4兆4573億円
2003/10月 介入額 2兆7230億円
2003/11月 介入額 1兆5996億円
2003/12月 介入額 2兆2519億円 (年間累計 20兆572億円)
2004/1月 介入額 6兆8215億円
2004/2月 介入額 3兆4766億円
2004/3月 介入額 4兆5332億円 (年間累計 14兆8314億円)  (FXWAVE:一部文章改変済)

 

最後に翌朝(2010年9月16日)の外為オンライン佐藤シニアアナリストのコメントです。

 


おはようございます。
ついに政府・日銀が市場介入に踏み切りました。
昨日の本欄でも介入の可能性が高まったとのコメントを書きましたが、非常にいいタイミングと
本腰を入れた「ドル買い/円売り」姿勢に、市場はややサプライズだったようです。
日銀は昨日の朝方10過ぎ、ドル円が82円台に入りNY市場での円高値82円92銭を上回った時点で、すかさず介入を実施しました。
今朝の報道によるとその規模も2兆円と、ドル買い円売り介入としては過去最大級ということになります。
また、介入方法も上値を買い上げていく、いわゆる「押し上げ介入」の手法を使った可能性が高く、
日銀にドルを買われた介入銀行は、市場で次々にドルの上値を買っていったことが連想されます。
予想外だったのは、海外市場でも邦銀の海外支店を通じてドルを買い続けたことです。
「協調介入」」の可能性はほとんどなかったことから、介入は東京時間限定と予想していましたが、
欧米市場でも断続的に介入を行ったことから、円は85円台の後半で膠着し、ほとんど円が上昇する場面はありませんでした。
介入を指揮する財務省からは「必要なら、今日も介入する」とのコメントも流れており、円高阻止に向けての強硬な姿勢が伺えます。
その意味では今回の介入は「大成功」だったと言えそうです。
昨日のあのタイミングを逸してしまうと、ドル安がさらに進み「介入はできない」と判断した投機筋に円が一段と買い進まれた可能性もありました。
継続的にドル買い介入を行ったことで、ドル売り円買いのポジションを膨らませていた投機筋も、昨日のどこかのタイミングでドルの買い戻しを行ったと思われ、今週末に発表されるシカゴ通貨先物市場での「建て玉」の変化が見ものです。
さて、82円台後半から85円台後半までまで「力づく」で3円も水準を押し上げたことになりますが、問題は介入がいつまで継続されるのか、ということと、どの水準まで押し上げを狙うのかという点に絞られます。
85円台の水準からさらに押し上げ介入が行われるようだと、85円から90円の水準を目指しているとも受け取れますが、このままずるずると再び円高方向へ流れる様だと82円台が「円高の上限」とも受け取れます。
過去の介入でも、単独介入だけで流れが変えられたことはありません。
足元の円高は本質的には米景気の後退によるドル安が主因です。
米景気が本格的に回復基調に戻るにはある程度の時間が必要なことは明らかです。
米景気の回復見通しが鮮明になり、「出口戦略」のタイミングが議論され始めた時が、ドルが上昇に転じる時
だと考えています。
さらに、今回の介入に対する米議会の反応は、下院歳入委員会のレビン委員長の不快感が象徴的です。
これ以上さらにドル高に誘導するようだと、ドル安を望んでいると思われるオバマ政権の内部からも
介入をけん制するような発言が飛び出すことも考えられます。
また、今後も次々に発表される住宅、雇用などの米経済指標が急激に改善する可能性は低いことから
ドルが再び下落することも十分考えられます。
一方、今回の介入による学習効果もあり、これまで通り円の高値を次々に更新して行く展開も
やや沈静化したように思えます。
82円ー83円台では介入警戒感も高まるからです。
しばらくは、介入警戒感と米経済指標との綱引きが続くのではないかと予想しています。  (外為オンライン:一部文章改変済)

 

当時の興奮を伝えていますが、最後の佐藤アナリストの「大成功」の評価とは裏腹に、ドル/円は低迷を続けます。私達は2013年の黒田バズーカまで待たなければならなかったのです。

 

続きます。

 

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