2018年8月15日ムーディーズ南アフリカランド報告書。その3終

(出典:Moody’s

 

 

こんばんは、品川です。2018年8月15日にムーディーズが発表し、南アフリカランドをプランジ(plunge 急落)させた報告書について記事を書かせて頂いています。

 

ぼーっと読んでいると、この手の報告書は、何を言っているのか分かりません。

 

そのロジックを明確にすることを、最後に試みてみたいと思います。

 

 

 


・報告書の中心はいたって明快。


 

前回から読んでいる、「ムーディーズ報告:南アフリカの財政再建鈍化。中期的目標は依然として達成可能(Announcement: Moody’s: South Africa’s fiscal consolidation slows but
medium-term objectives still likely to be reached)」ですが、その核心は簡単で、

 

南アフリカ、ズマ政権からラマポーザ政権に変わっても、財政を好転させることに成功してないよ。

こんなことじゃ、国債(評価)の格上げもできないね。

国が怪しいんだから、発行通貨のランドも危ないよ。

 

ということです。

 

現在、ランドにおいて最も脅威なのは、実は格付け会社だったりします。(理由は、南アフリカがジャンクと投資適格の境界線にいるからです。前回参照。)

 

だから、市場もこのムーディーズ報告に敏感に反応するわけですね。

 

 

 


・よく分からない箇所。


 

これでムーディーズの報告書もポイしてよいのですが、手ごわい箇所を見つけました。

 

良い機会ですので、一緒にすこし、うんうん唸って読んでみましょう。

 

次の箇所です。

 

 

我々ムーディーズは南アフリカの財政赤字が、2018年から2019年にかけてGDPの4%だと予測している。それは、GDPの政府予測からの0.4%ポイント降下も想定に入れてのことだ。

しかしながら、我々ムーディーズは、政府がその財政赤字目標として3.5%しか到達しないと予測している。しかも2020年から2021年にそれは実現するのが精いっぱいだ。

結局、国債は、GDPの約56%で止まりそうである。

 

Moody’s expects a fiscal deficit of around 4.0% of GDP in 2018-19, implying a 0.4 percentage point of GDP
shortfall from government targets. However, Moody’s expects the government to hit its 3.5% fiscal deficit target
by 2020-21, with debt likely to stabilize at around 56% of GDP.

 

どうでしょう。

 

何言っているか全然わかりませんよね。

 

 


・財政赤字の測り方。


 

まず、上掲引用の次の箇所から読解してみましょう。

 

我々ムーディーズは南アフリカの財政赤字が、2018年から2019年にかけてGDPの4%だと予測している。

 

これは、GDP比で4%だ、というこです。

 

財政赤字は、GDPに対する比率で測定されます。

 

これは株式市場でも日経とダウを比べる時とか、しょっちゅう行われること(株式市場は取引額が国によって異なるのでそれに対する比率=パーセンテージで変動を表す)を考えれば納得行くでしょう。

 

参考:中国財政赤字、18年のGDP比目標は2.6% 12年以来の改善

 

 


・次の箇所。


 

次の箇所は落ち着いて読めば大丈夫です。

 

それは、GDPの政府予測からの0.4%ポイント降下も想定に入れてのことだ。

 

これは単純に、ムーディーズが、南アフリカ政府のGDP成長率目標(IMFなどは1.4%などと予測していたみたいです)から、0.4%(これはかなり大きな数字です)低めに見積もっている、ということです。

 

例えば、政府目標1.4%成長だったら、ムーディーズは「どうせ1.0%だろう」と予測している、つまり期待していない、ということです。

 

参考:IMF、2018年の南ア経済成長率を1.5%に上方修正

 

 

 


・一番よく分からない箇所。


 

次の一文はがいちばん難しいです。

 

しかしながら、我々ムーディーズは、政府がその財政赤字目標として3.5%しか到達しないと予測している。

 

これは要するに「GDP比で財政赤字を3.5%までにしか削減できない」ということです。

 

先程の説明した箇所とつなげて、こう読めば分かるでしょう。

 

我々ムーディーズは南アフリカの財政赤字が、2018年から2019年にかけてGDPの4%だと予測している。

しかしながら、[更に悪いことに]我々ムーディーズは、政府がその財政赤字目標として3.5%しか到達しないと予測している。しかも2020年から2021年にそれは実現するのが精いっぱいだ。

 

つまり、

 

① ムーディーズ予測では、南アフリカの財政赤字削減は、今年から来年(2018年から2019年)ではGDP比4%がやっと。

 

② それは2020年から2021年に財政年度を変えても変わらない。GDP比3.5%に財政赤字を削減するのがやっとだろう。

 

と言っているわけです。

 

参考:中国財政赤字、18年のGDP比目標は2.6% 12年以来の改善

 

 


・財政赤字って普通、どのくらいなの?


 

南アフリカの財政赤字は、GDP比で、3.5%から4%というのが分かりました。

 

これは、どのくらい酷いのでしょうか。

 

ネット上では2018年4月度のデータが出ていますので、見てみましょう。

 

アメリカ:4.58%の赤字。

 

日本:4.23%の赤字。

 

南アフリカ:4.55%の赤字。

 

 

もちろん、財政赤字もGDPも計算方法が多種多様で、以上の数字が、ここまでの話に完全に接続している確信は100%ありませんが、これらを見る限り、南アフリカの財政赤字自体が、問題ではないようです。

 

日本やアメリカは既に先進国で停滞でもやむなし。

 

伸び盛りの南アフリカがそんなことでどうする。

 

これがムーディーズの見解だと思います。

 

中国は財政赤字GDP比2.6%にまで(目標を)縮めて来ていますしね。

 

 


・最後の一文。


 

で、最後の一文です。

 

結局、国債は、GDPの約56%で止まりそうである。

 

何いっているんでしょうかね。

 

これは要するに、債務残高のことです。

 

債務残高を(財政赤字の時と同じように)GDP比で表しているのです。

 

これに関しては日本がぶっちぎり。GDP比236.39%という驚異的数字を叩き出して、2位のギリシア(!)の181.91%を上回っています。

 

 


・ムーディーズ報告書まとめ。


 

だらだら書いてしまったので、今回のムーディーズ報告書の内容をまとめてみましょう。

 

 

① 南アフリカ、新興国なのに、期待された伸びが予測できない。

 

② 具体的に言えば、財政赤字が先進成長停滞国のアメリカや日本と同じく4%界隈で元気がない。

 

③ 国債もダメ。債務残高として目立った改善が認められない。

 

 

 

どれがどれ、というわけではないですが「元気がないぞ、南アフリカ!」というのがムーディーズからのメッセージだと思います。

 

非常に抽象的な内容なのですが、くだんのトルコリラショックを通じて具体化してしまった、というのが実情でしょう。

 

私は本ムーディーズの件に限って言えば、一過性のものである、と言いたいのですが、みなさんはどうお考えでしょうか。

 

・・・・・

 

それでは、これで本連載は終了です。

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。m(_ _)m

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